コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

月館の殺人 (上)

月館の殺人 上  IKKI COMICS

月館の殺人 上 IKKI COMICS

久々の佐々木倫子。しかも今回は原作者として綾辻行人の名前が付いている。しかもタイトルに「殺人」なんて物騒な言葉が付いていて、いままでにないミステリーものとなっている。

「綾辻」+「館という文字」だったので館シリーズかと思ったのだが、そうではないようで。舞台は古いSL列車の中。その閉鎖した空間の中で巻き起こる事件。


前作「Heaven?」は面白かったものの、佐々木倫子独特の専門ネタが希薄だったので残念だったのだが、今回はそのマニアックさが度を増して帰ってきた。テツ、テッチャン、鉄道マニア。とにかく全編そういう臭いが撒き散らされまくっている。

加えて、いままでの1話完結型のドタバタ喜劇ではなく、ストーリーの続くミステリーモノ。しかし多少形は変われど佐々木倫子テイストは健在。主人公は「おたんこナース」系のちょっと妄想突っ走り気味の少女。冷静な美青年あり、突っ込み役の疲れ顔の紳士(車掌さん)あり、騒ぐだけの我侭いっぱいのバカ男たちあり。ところどころで吹き出すくらい笑った。

以下ネタバレ込みで。


さて、列車内で殺人事件が起きるわけだが、佐々木倫子ののほほんとした雰囲気のせいなのか、あるいは意識的にそうやっているのか、緊迫感や焦燥感があまりない。少女が一人でいるときは緊張感、不安、危機感が渦巻くのだが、他の乗客が出てきたとたんに一気に薄らぐ。これは乗り合わせているテツマニアたちがまるで危機感を感じていないからだろう。車掌もやたら淡々と事態に対処している。

まだ話は続くので、これが伏線なのか、あるいは佐々木倫子テイストのためにそうなってしまったのかはまだわからないが。しかし乗客の中に犯人がいるかもしれないのに少女以外だれも不安を感じている描写がないというのはやはりちょっと不自然のような気がした。実は全て作り事?という気にさせられる。しかし被害者は確かに死んでいるようだし・・・。


そして、被害者が佐々木倫子得意の「冷血美形キャラ」であるのもちょっと辛いところであろう。乗客の中にまともな人間が一人もいなくなってしまった。あと頼りになりそうなのは車掌さんくらいなものだが、彼は列車に残るといい、列車を降りた後、少女は本当に頼る人がいなくなってしまう。ミステリとしては頼る人のいないシチュエーションというのは効果的だが、ギャグとしてはフォロー役、同意役を失うわけで、なかなかしんどいのではなかろうか。って余計な心配か。


でも単純に面白い。鉄道のマニアックな知識はあんまり興味がないので半分読み流しだが、そういうところもしっかり書いてあるところが相変わらずと思わせる。またそれがミステリーに深く絡みついてきそうだし。

ミステリー部分についても、密室というコテコテのおいしい素材を持ってきている。ただそれを解決せずして列車を降りてしまうようなのでどうなのかと思うが。


いや、そうそう、列車を降りてしまうといえば巻の最後、実は列車は動いてませんでした、というオチにはびっくり。どういうことだろうか。月館に既に着いていたのか、あるいは最初から列車は動いていなかったのか。いやでも駅から乗ったよね? 寝ている間に何か細工をした? 殺人トリックよりもそっちのトリックの方が壮大じゃない?

そういえば列車を外から描いているシーンがほとんどなかった。SLの解説をするときにイメージとして絵が出てきたくらいで、走っている「幻夜」を外から描いた絵はなかったような気がするな。


で、最後に館が出てきたわけだが、けっきょくこれは館シリーズになるのかな?*1


とにかく続きが気になるなあ。

*1:といっても館シリーズは1冊しか読んだことないんだけど。それもかなり前のことなのでどんなテイストだったかよく覚えてない。