コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

映画版「サイレントヒル」

ようやく映画版「サイレントヒル」を見てきましたよ。移動時間、往復3時間半。遠かった。それでも見に行かねば収まらぬ気分だったので。

相方はホラーがダメなので、会社の先輩と男二人で車を飛ばして見に行って来た。平日だったが、ちょうどメンズデイで安かったし。ま、メンズデイということで客はほとんど男・・・というかおっさんばっかりだったけど。


さて内容について。一言で言えば「惜しい」作品だった。悪くはない。ダメでもない。しかし「惜しい」。世界観やサイレントヒルの再現については申し分ない。しかしストーリー、特に後半に入ってからが弱い。そして最後には「結局はハリウッド映画か・・・」という言葉が出てきてしまうような展開になってしまった。具体的には後半にネタバレこみで書きます。

しかし惜しいとは思いつつも、クリストフ・ガンズ監督のサイレントヒルに対する愛はひしひしと感じた。これだけ原作への愛に満ち溢れた作品もないのではないだろうか。見た目や雰囲気に関しては文句なくサイレントヒルらしさを損なわずに再構築されていた。ゲームを知っている人ならニヤリとさせられるような場面、場所、音楽、人物、そしてクリーチャーの数々。特に異界の表現は予想以上に良かった。異界化はサイレントヒル3のそれを確実に越えている。ゆえに、劇場まで見に行ったことを後悔はしていない。

あとは怖さがちょっと足りなかったかな。自分でプレイするゲームと比較するのは酷かもしれないが。


さて、以下ネタバレ込みで。

例の如くひねた性格なので、批判的なことが多くなってしまうかもしれないが、先にも書いたように「だからダメ」ではなく、「だから惜しい」という意味なので。愚痴ではなく愛です。

媒体 劇場
もう一度見たい ○(細部を確かめながら見直したい)
劇場で見たい ○(異界は劇場で見る価値があると思った)
最後まで集中して見れた 
他の人にも薦めたい △(グロいし。ゲーム知ってる人には○)
印象的なモノがあった
マニアック ○(ゲームネタ多いので)

サイレントヒルの世界

先にも書いた通り、サイレントヒル世界の再現はかなり良い出来。霧に霞むゴーストタウン、断崖で行き止まった道路、サイレンが鳴り響き辺りが暗くなる様、血とサビと金網の異界、ゲームにも登場したクリーチャーたち。オリジナルから持ってきた素材は非常にハイレベルで再現、再構築されている。

クリーチャーについて。1、2のクリーチャーを登場させたことでたくさんのクリーチャーを見れるのはいいのだが、数が多いだけにそれぞれのクリーチャーの存在意義が希薄になってしまった感はある。特にゲームでは深い意味のあった三角頭がただのクリーチャーの一人になってしまっていたことは残念。それと一番最初の子どもといい、ゴキブリといい、バブルヘッドナースといい、一度にたくさん出てきすぎ。たくさんいるというのはちょっとサイレントヒルの雰囲気と違う。

キャラとしてはそれぞれ凄くよかった。三角頭の見た目や鉈を引きずる音のかっこよさは文句なし。バブルヘッドナースもエロキモい感じがよく出ていた。またクリーチャーではないが、リサの登場も印象的。最後に顔を映すのではなく、思わせぶりに血が垂れている口元だけ映して、という描写でも良かったかもしれないが。

異界は非常に良かった。特に壁が崩れ落ちて異界化するシーンは原作以上の凄さ。あれはゲームでは表現しきれないところだろう。異界化した後の世界も、原作を損なわずしかし単に真似しただけでもなく、予想以上に秀逸な出来で、見ていてドキドキワクワクした。コワ素敵。

一方で不満点も。最も重要な場所であるはずの病院のシーンが短い。エレベーターでいきなり最下層に到達し、多数のナースをすり抜けたらもうゴール。ここはちょっと残念。もうちょっと探索→異界化をしっかりと表現して欲しかった。

音楽

BGMとしてゲームの曲があちこちに使われていた。音楽も重要なファクターとなっているゲームだけに、原作好きとしてはかなり嬉しい。その点だけでも監督が原作ファンであるということが窺い知れた。

ゲームとの違い

設定としてはゲームとはかなり違う。クリーチャーは明らかに「人」だし、アレッサは悪だし、現実のサイレントヒルと悪夢のサイレントヒルが「別世界」として描かれている。原作をリスペクトした上でそういうオリジナリティを作り出すのは良い。良いとは思うし概ね失敗ではないとも思うが、がやはり原作ファンとしては違いが気になってしまう。少々説明的なのも気になったところ。ま、映画という一般性の高いメディアになるにあたって、説明が必要になるのは致し方ないことかもしれないが。

登場人物については多数のオリジナルキャラが投入されているが、それが成功したとはちょっと言い難い。原作贔屓ゆえにそう思えてしまうのかもしれないが、深みが今一歩足りないと感じた。

また恐怖感という点でも映画とゲームには多少違いがある。ゲームのサイレントヒルの恐怖の肝は、「息を飲む恐怖」「静かな圧迫感」にあると思う。一方で映画は、武器を持たない女性を主人公にしたことで「叫ぶ恐怖」になってしまった。ここも「惜しい」ところ。女性を主人公にしてもいいが、「息を飲む恐怖」「静かな圧迫感」をもう少し生かして欲しかった。

人多すぎ

ゲームではほぼずっと一人で行動していたが、映画では警官のシビルと長い間共に行動すしている。さらに途中からもうひとりの女性が増え、女三人での探索に。ひとりぼっちの不安感が肝の作品だけに、誰かと行動を共にする時間が長いというのはマイナス点だと思う。

さらに中盤以降、教会が出てくる辺りからすごくたくさんの人が出てくる。それだけでも違和感だったのだが、それ以上に納得がいかなかったのは病院への移動シーン。変な防護服を来た人を含め、5〜6人でぞろぞろと街を歩く。みんなで歩くサイレントヒルなんてサイレントヒルじゃないよ。雰囲気ぶち壊し。

ラスト、教会で

ローズが悪アレッサを連れてきて、教会にアレッサが召還される。そこからのシーンはもうダメ。コテコテのハリウッド的な殺戮劇。針金の触手を伸ばしたアレッサが狂信者たちを引き裂いていく。なんだこれ。全然サイレントヒルぽくないよ。

父親の必要性

この作品、父親が出てくる必要があったのだろうか。「外」の世界から妻と子、そしてサイレントヒルの事件を追うという役割だったが、けっきょく彼の存在がローズとシャロンに何かを働きかけることはなかった。この父親がいなくても話はまとまったような気がする。「外と中の対比」と、最終的に「戻るべき場所」という以外の存在意義があまり感じられない。それらを省略してしまってもドラマとしては十分成り立つ。むしろ父親のシーンを削って、病院の探索シーンなどを入れた方が嬉しかったかも。

テーマは母性

主人公がおっさんではなく、女性になったという話を聞いて違和感を感じていたのだが、どうやら監督は「母性」をテーマにサイレントヒルを描きたかったからそうしたようだ。しかし残念ながら、それが成功しているとは言い難い。

最終的に主人公ローズは悪アレッサに同情し、その復讐の手助けをしてしまう。あまつさえ自ら人を殺めてしまう。これは母性を示すというよりも、子に翻弄されているだけだ。そしてアレッサは復讐を成し遂げたとはいえ、最終的になんら救われていない。火が罪を深めるだけなら、復讐もまた罪を深めるだけだ。アレッサはより深い闇に閉じ込められたに過ぎない。

母性をテーマにするのであれば、悪アレッサの復讐心をさえ懐柔してしまうほどの懐の深さを見せてほしかった。復讐を手伝うのではなく、母としての安らぎをアレッサに与える、母としての厳しさを子に見せる、あるいはダリアの愛をアレッサに伝える。そのくらいのことはして欲しかった。

エンディング

最終的にローズはサイレントヒルを抜けて自宅に帰るが、そこには霧が立ち込め、いるはずの夫はいない。シャロンが悪アレッサと入れ替わったことにより、ローズは彼女の世界に閉じ込められてしまうというエンディング。先にも書いたが、アレッサの悪意と苦しみは解放されず、ローズはアレッサを真の意味で救うことができなかった。さらにローズは教会でのどさくさで人を殺めてしまい、罪を背負う。ゆえに罪人の世界である「異界」に閉じ込められてしまった。そういうことだろうか。

ゲームで言えば明らかにバッドエンディングだ。グッドエンディングにしなければいけないということはないが、最終的に救いのない終わり方になってしまったことにはちょっと不満。せめて「GOOD-」くらいの終わりにはして欲しかった。

最後に

総括としてはやはり「惜しい」。ゲームでは後半になればなるほど恐怖感、不安感、圧迫感、そして絶望感が高まっていったが、今作では後半になるほど不安感が薄れていった。人が多いというのもあるし、ネタバレが早いというのもあるし、後半に異界があまり出てこないというのもあるし、最後の教会のシーンがアレなせいもあるし。前半の雰囲気を深めつつ話を進めていけば傑作になったかもしれない。つくづく惜しい。

追記

父親に関してこんな記述を見つけた。

ガンズは、当初男がまったく出ないシナリオを用意していて、スタジオ上層部に言われて旦那役を作ったらしい。

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