コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

妖怪大戦争

妖怪大戦争」見てきました。最初は特に期待もせず、相方が見たいと言ってるから見に行くか、くらいに思っていた映画だったのだが、情報が入ってくるにつれてどんどん期待が高まっていった。超豪華なキャスティングで、「怪」メンバーまでキャストとして参加しているという。さらに舞台が鳥取と聞き、最終的には相方よりもノリノリな気分で見に行ってきた。

感想は・・・。面白かった。単純に素直に楽しめた。思わずパンフ買ってしまった。

子どもや妖怪マニアはもちろんのこと、ショタコンや太ももマニアまでをも満足させてくれること必至。豊川悦司ファンも、京極夏彦ファンも、栗山千明ファンもみんな寄ってらっしゃい。

細かく見ればアラやツッコミどころは多々あるものの、映画を通して見ればそういうところを突っ込むのがヤボに思えてくる。良い映画というのはリアリティや手の込んだエフェクトだけではなく、見せ方と演出、もっと言えば映画に対する思い入れと愛によって作られるものなのだと実感した。

シリアスからギャグ、ジュブナイルからエロチックまで、妖怪からロボットまで、いろんなものがごちゃ混ぜな映画だけに、語りたいことが多くて感想はめっちゃ長くなりそう。それだけ盛りだくさんなのに、それが乖離せず「妖怪大戦争」という映画の中で上手くミックスしている手腕は凄いと思う。


内容に入る前にとりあえず評価。劇場で見ると評価は上がってしまうものなのかもしれないけど。

媒体 劇場
いつかもう一度見たい
劇場で見たい
最後まで集中して見れた  ○(鳥取ネタはちょっと冷静に見てしまった)
他の人にも薦めたい ○(小さいお友達から大きいお友達まで)
印象的なモノがあった ◎(アリアリ)
マニアック ○(妖怪映画だし)


以下、ネタバレありなので注意。

鳥取が舞台

まず鳥取の人、見なさい。見るべきです。見ましょう。見てください。東部と西部がごっちゃになってたりはするけど、地元の方言を知ってるとそれだけで笑える。菅原文太の「助けてごせー、死ぬやなわー」を聞いて、相方と二人で必死に笑いを堪えていた。

途中、境港を観光したりしていて、「これは鳥取のPR映画かいな」と思ったり。


とはいえ、地元ゆえに気になる点もいくつか。まず子どもの会話。実際には子どもこそ方言が強いのだが、映画では子ども達が標準語でしゃべっていた。主人公以外の子の演技がいまいちだった上に言葉がふつーだったのでちょっと残念。あそこで方言バリバリにしてくれたら嬉しかったのだが。

あと、地域の齟齬。主人公が住んでいるところは西部ぽい感じ。方言も西部のものだったし、大天狗が住む山も大山をモチーフにしているようだった。大山にしては形が変だったが、まあそのあたりは演出ってことで。一方で物語のキーワードになっている麒麟麒麟獅子舞は東部の文化。東部と西部を無理に分ける必要もないかもしれないが、100キロ以上離れた地域なのでやっぱ文化や習慣の違いは多い。知っているがゆえにちょっと違和感。

あと、獅子舞は鳥取の人がやってるようだが、うちの母の実家でやっている麒麟獅子舞の方が、獅子も猩々もキビキビと舞っていてかっこう良いのになあ、と思って見ていた。

キャストについて

主人公、稲生タダシこと神木隆之介*1。まだ12歳ながら完成された演技を見せてくれる。大人びた演技というわけではなく、年齢相応に怯えた子どもや、勇気を持って試練に立ち向かう姿を違和感なく演じていると思う。

そして特筆すべきはやはり着替えシーン。撮り方、見せ方の絶妙、とでも言うのだろうか。あのシーンはホモやショタ属性がなくとも思わずどきっとしてしまうだろう。短いシーンだが、撮り方、見せ方の上手さがにじみ出ていると思う。

主人公の殺陣については、ちょっとわかりにくいところはあるものの、おおむね問題なし。しかし殺陣で言えば「さくや妖怪伝」の方がよかったかな。剣の使い方を覚えてからはもっとしっかりゆっくりかっこよく殺陣を見せてくれても良かったと思う。でもまあ「戦うこと」がテーマの映画ではないからこれでいいのかも。


次。今作では女性キャラの印象が際立っていたと思う。

栗山千明の鳥刺し妖女アギはパンチラしまくりで胸元のチラリズムスタイルの良さとキメポーズで、登場シーンなどめちゃめちゃカッコよく感じた。ところどころ「子どもターゲットの映画でそんなん見せていいのか」って感じのエロいしぐさもあり。特徴である長い黒髪がない分、衣装や仕草で印象を際立たせていた。

そして高橋真唯の川姫の濡れた太もも。アギとは違う雰囲気ながら、こちらも凛とした強さを持つキャラ。人への憎しみを孕みながら、それを乗り越えて人を愛す。ある意味でこの物語中最も強い心を持ったキャラかもしれない。この高橋真唯って人はよく知らないなあと思っていたのだが、先週末に実家で週刊誌を見ていたときに、相方と二人で「この人かわいいねえ」なんて話をしていたのが高橋真唯だったことを思い出した。なんだか妙なところでシンクロしてる。


男性キャラ。宮迫がどういう位置づけの人物なのかと思っていたが、まさか最後にあんなところであんな風にあんなことしてしまうなんて。そりゃキャストの最初の方に名前が出てもおかしくないわな。川太郎の阿部サダヲと小豆洗いのナイナイ岡村は最後のスタッフロールを見るまで誰だかわからなかった。どっちもギャグ系ナイスキャラ。

そして物語にはほとんど関わってこないのにやたら豪華な妖怪キャスティング。ひとつ欲を言えば、忌野清志郎とともにエンディングテーマを歌っている井上陽水には是非出演して欲しかった。


眉毛のない豊川悦司の加藤保憲はカッコよすぎ。ずーっとシリアスだったけど最後の最後でキメてくれた。さすが舞台出身の俳優。*2加藤というとどうしても「帝都物語」の嶋田久作を連想してしまうのだが、トヨエツはこれはこれで良かったと思う。ここで嶋田久作では、アギが惚れるのが納得できなかっただろうし。*3


最後「怪」メンバー。宮部みゆきの名前が比較的前の方にあったのでどこで出てくるかと思ったら、先生ですか。妖怪にはならんのかい。荒俣宏京極夏彦。どこに出ているかなーと思っていたら最後の最後に出てきた。京極夏彦はクマドリのせいで、意識して見ていないとそれと判別できないのに、同じようなクマドリをしている荒俣宏は一瞬で判別できてしまうのはなぜだ。中の人が濃過ぎるのか。二人とも「魔王」になれてさぞご満悦のことでしょう。

妖怪とか機怪とか

妖怪の造形としては、「さくや妖怪伝」よりは良かったので一安心。京極夏彦の面目躍如かな。とはいえ、やけにリアルなものといかにもヌイグルミっぽいものの差はあったけど。スネコスリはまんまヌイグルミでどうしようかと思ったが、見せ方が上手いためか、そんなに違和感なく見ていることができた。落語で扇子が箸や釣竿になるような感じと言えばいいのだろうか。ヌイグルミのくせにちゃんとキャラが立ってた。

細かいところを言えば、川姫の手足があまりにも違和感ありすぎだとか、百目やぬっへっほーやからかさお化けがやっぱりまんまヌイグルミだとか、突っ込みどころはあるが、物語の勢いでそういう違和感をかき消してしまってる。


機怪と呼ばれるロボットについては概ね違和感なし。日本映画でここまでしっかりとしたロボはなかなかないかも。造形は「クーロンズ・ゲート」の妄人(ワンニン)か鬼律(グイリー)のようで悪くない。動きも単にCGで作ったコテコテものではなく、微妙に動きをぎこちなくして昔のコマ撮りSFX映画のような効果を出しているのも良し。「マトリックス レボリューションズ(asin:B0009Q0JJM)」のセンチネル戦より面白かったと思う。

ヨモツモノはハウルの動く城をネタにしてるのかな? あるいはファイナルファンタジーの「シン」か。さすがにそれを参考にしたってことはないか。


ところどころに埋め込まれていた微妙なパロディやギャグも悪くなかった。いったんもめんとの絡みで鬼太郎の名前が出てきたり、麒麟送子だからキリンビールだったり。クリチーのアギは明らかに「キルビル」の「GOGO夕張」を意識して作られているし。他にも麒麟送子のコテコテ衣装とか、迷い家での「イヤン」とか、微妙にクスリと笑えるネタがあちこちに仕込んであった。

ギャグで一番笑ったのは、おでん屋の屋台での「ゴボウが、ゴボウがーー!」だったかな。本質と全然関係ないけど。

映画のテーマ

この映画にはいろんなものが詰め込まれている。テーマにしてもそう。大人向けと子供向けのテーマが一緒に込められている。

わかりやすいテーマは「物を大切にしよう」と「戦争は腹が減る」。「戦争は良くない」ではなく、「腹が減るだけ」というのは水木しげるらしくて良い。説教臭いことに変わりはないのだが、「愚かなもの」「悲惨なもの」というのではなく「くだらないもの」と言い放ってしまうところが押し付けがましくなくて良い。実際には「腹が減る」というのが、戦う者だけではなく、子どもなどの戦えないものをまでも飢餓に陥れる、という不可読みもできるだろうが、水木しげる妖怪大翁が発した言葉ゆえにさらりと聞ける。だって戦争を越えてきた生きた妖怪がそう言ってるんだもの。

他のテーマとしては「ジュブナイル」。妖怪を信じ、目にすることのできる「子どもの頃に持っていた純粋さ」を大人に対して投げかけている。「となりのトトロ」あたりにも通じるだろう。そしてその子どもの成長。「真っ白な嘘」という言葉にそれが集約されている。


しかしそういう小理屈はともかく、この映画の最大のテーマはこれ。「妖怪大好き」。もうこれしかないでしょう。「怪」メンバーも監督も、妖怪好きじゃないとこの映画は作れないよ。


あとはあれだな。「小豆は体(みがら)にええだ by じいちゃん」。

苦言もちょっと

物語として投げっぱなしやご都合主義だと感じた点も何点か。

まず大天狗の行く末。あれだけ大仰に連れ去られたにも関わらず、けっきょくどの機怪になったのか判らず仕舞い。「あれは大天狗」みたいなワンシーンでもあればよかったと思うのだが。それとも出番が来る前に物語が終わってしまったのだろうか。

次に、主人公の父や姉はどうなったのか。あの人気のなくなった東京で無事に生きているのかどうか。そしてそれをまったく心配しない主人公。「真っ白な嘘」とか言ってないで家族の心配もしてください。

とはいえ、上記はまあ気にはなるけど致命的でもない。最後の「真っ白な嘘」のやりとりが明るいだけに、父や姉もどこかで無事に生きてるんだろう、という根拠のない安心感を感じる。コメディ映画だしね。


しかしひとつだけ、これだけはどうしても我慢できなかった点がある。それは警官役の徳井優が機怪に捕まった人を助けようとして人を誤射してしまうところ。これは何かのパロディなのかもしれないが、この物語の中では不必要だろ。むしろ酷く浮いてたように思う。っていうか引いた。気にしすぎかな。

総括

まあ最後の苦言は置いておくとして、そんなわけで妖怪大戦争、お奨めです。スターウォーズもいいけど、日本産の大戦争映画*4も見てください。同じ「戦争/ウォー」ものですから「妖怪大戦争」も見てみてください。

余談

川姫が元は人形(ひとがた)で、恨みによって妖怪になった。知ってる人は知っていると思うが、これは河童の由来に基づくもの。河童は元々は呪術によって人に使われていた人形で、それが不用になり打ち捨てられることによって害を成す妖怪となったという説があり、それを元にしている。

川姫の回想シーンで安倍晴明が一瞬出てきたのは、呪術によって人形を使っていたのは晴明だったということを示唆しているのかもしれない。

人形化説は左甚五郎(江戸時代)、竹田番匠(古代)、熊本・長崎・岐阜県飛騨の匠(奈良、平安時代)などの大工の棟梁が、社寺や城建立のときに人手が足りないので呪術で木端や藁人形に魂を入れて手伝わせた。完成すると不要になったので、「これからは人間の尻子玉(人間の命の源で、これを抜かれたら人間は生きてはいけない)でも喰って生きろ」と言って川に捨てた。この人形たちはその後河童になったという。

関連サイト
映画サイト
個人

*1:役名よりも俳優名の方が麒麟送子っぽいな。

*2:彼は寡黙そうに見えて実はコメディもできる人。よく喋る豊川悦司を見たかったら「Lie Lie Lie」って映画を見てください。asin:B00005GPAF、DVDはないようです。

*3:久作さんゴメンナサイ。

*4:というかテーマは真逆なんだけど。