コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

グシャノビンヅメ

インディーズ映画という肩書きはあるものの、そんなこと関係なくとにかく引き付けられた。グロ、暴力がちょっと過剰でそこはしんどかったが、それを差し引けば、キャラ、世界観、デザイン、ストーリー、テンポ、センス、役者、いろんなところがツボを突いてくる映画だった。

舞台は百数十の階層からなるレトロと近未来と現代が入り混じったような世界。各階層にそれぞれ個性的な街があり、その町々をエレベータが繋いでいる。藤崎ルキノは久々に学校へと通うために、そのエレベータへと乗り込んだ。

決して万人受けする映画ではないだろう。先にも書いたが暴力性が強く、血まみれな映画なのでそういうのが苦手な人にはお薦めしない。内容についても、私はかなり好みなのでオッケーだったのだが、世間の評価は二分しているようで、絶賛の声と全然ダメという声に両極化しているようだ。それでも、SFチックなものが好きな人、密室劇が好きな人には琴線に触れるものがあるのではないかと思う。

媒体 DVD
もう一度見たい ◎(多分見る)
劇場で見たい ○(地元ではないだろうけど)
最後まで集中して見れた  ○(微妙に冗長なところも)
他の人にも薦めたい △(グロ・暴力ありなので)
印象的なモノがあった
マニアック

以下ネタバレ込みで。


百階層を越える巨大構造物、そこを上下に繋ぐ高速エレベータ。ハイテクなのに妙にレトロチックなギミック。コテコテではあるが存在感のある監視局。そんな中に普通の女子高生やサラリーマン、主婦。非常に奇妙で独特の世界。アニメならありそうなそういう世界をしっかりと映像として表現しているところが凄い。見ていてゾクゾクする。そしてそういう奇妙な世界観にただ甘えるのではなく、きちんとストーリーの筋を通しているところも評価したい。

次にキャラクター。どこにでもいそうな者から奇抜過ぎる奴までいろいろ。その誰もが個性的で印象に残る。特に主人公の藤崎ルキノ。彼女自身の存在感もあるが、撮り方の妙でさらに強い印象になっている。他にもヘッドフォンをつけた男、エレベーターガール、二人の犯罪者、主婦、博士、監視局の若者。それぞれが個性的でクセがあり、エレベーター内の密室という異常な空間内でそれぞれの役割を十二分に果たしている。

映像美。特に影や色の使い方が絶妙で、「絵になる絵」が随所に見られる。それもただカッコイイだけではなく、ストーリーにのっとって要所要所に巧みに使われている。

そしてストーリー。感想を見ていくと「ありがちな展開で途中でネタがわかった」などの意見もあったが、私は最後のビンのオチが来るまで、ぜんっぜんわからなかった。というか疑ってもいなかった。私に判断力、想像力がないかもしれないが、そこまでに仕込まれた幾多のブラフは絶妙だったと思う。こういう展開、大好き。

そしてもうひとつ特筆すべき点。こういう展開の話はたいがい話がややこしくなり、話のつながりがわかりづらくなる場合が多いのだが、この「グシャノビンヅメ」では非常によく構成されていて、その展開がはっきりとわかった。現実と精神世界とを明確に違ったテイストで描き、また「テレパシー」が判りやすく表現されていたために、細かい説明がなかったにも関わらず、展開もどんでん返しもすっきりと理解できた。この辺りの見せ方は非常に上手いと思った。


誉めてばかりでもなんなので気になった点も少々。インディーズだから、という甘えや妥協はここではなしにしたい。一個の作品として。というかこの作品は完成度としてはインディーズだからどうこう、というレベルで語るような作品ではないと思うので。

こういう作品でリアリティをどこまで出すか、というのは難しいところだろうが、エレベータを外からみたときの造りがちょっと雑だったように思う。いかにもミニチュアで動きがぎこちなくてちょっと。

他には・・・エレベータ内のサラリーマンのシーン。あれ必要だったのかな、と。あそこだけ妙に浮いてるような気がする。あと一部の脇役の役者さんの演技が素人ぽくてそこはちょっと。

そしてビンのオチ後の乗客の事情聴取シーン。視聴者としては聞きたい話ではあるが、しかしあそこは見せずに想像させる方がよかったのではないだろうか。終わった・・・と思った後が少々冗長で、テンポが悪くなっていたように感じた。

ラストは・・・悪いとは言わないけど、それまで筋を通してしっかりとストーリーを見せてきた話が、最後だけ「自由にご想像ください」と放り出されたような気がして。ありがちなオチとまでは言わないけれど、「アヴァロン」なんかと被ってることは否めないし。


とまあ偉そうな書き方してるけど、「すごいなー」「かっこいいなー」「やられたなー」というのが素直な感想。あまりインディーズ、インディーズと、その枠組みで語るのは失礼だとは思うが、しかし商業的なものが絡まないインディーズだからできた映画であることも確かだろう。こういう面白い物を追求して作ろうという意気込み、商業映画も忘れちゃいかんと思う。

この映画、AmazonでDVD販売してないのが悲しいところ。

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