コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

靖国神社について

たまにはちょっとお堅い話でも。


靖国参拝問題といわれるものには2つの側面がある。ひとつは「政教分離」という内政的問題。もうひとつは「A級戦犯と言われる人たちの合祀」という外交上の問題。

中国や韓国、台湾が批判するのは後者で、違憲問題が取り沙汰されるのは前者なのだが、この2つがよくごっちゃごちゃにして議論されるので話がわかりづらくなる。もちろん、後者だけでは靖国参拝を司法の土俵に持ってくることができないので、本来の目的が後者であっても意図的に前者を持ち出して訴えるということも少なくない。

これなどはその典型だろう。

小泉純一郎首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた憲法に違反し、精神的苦痛を受けたとして、台湾先住民ら188人が国と首相、靖国神社に1人当たり1万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(大谷正治裁判長)は30日、参拝を「公的」とした上で「憲法の禁止する宗教的活動に当たる」として違憲と認定した。

判決は参拝の公私の別に対する小泉首相の姿勢について「政教分離原則が論議されている中で、公に明確にすべきだ」と批判した。賠償請求については「参拝や信仰を奨励したり、自らの行為を見習わせることを意図したものではなく、思想、信教の自由など権利を侵害していない」として退け、控訴を棄却した。

ただしこれはこれは違憲判決ではなく傍論で述べられた裁判長の判断。そもそも日本では「違憲裁判」「違憲判決」というものは存在しないらしい。つまり司法では、法律や政治的行為そのものの違憲性を問うことはできないらしい。ゆえに「違憲判断」を求めることになる。そのためには、その問題に関連する別の裁判を起こし、その裁判の中で違憲判断を求めるしかないようだ。だからこの裁判も「精神的苦痛の損害賠償」という裁判になっている。

違憲裁判を行うとなれば、司法が政治以上の力を持って政治に介入してしまうことになるから、かな。


靖国に話を戻そう。首相の参拝問題についてではなく、ここでは靖国神社そのものについて。

よく言われることだが、戦没者を慰霊するのであれば無宗教の施設を作ってそこに祀ればいいのではないかと思う*1。単に「別の施設を作れば批判を避けられる」という理由からではない。外からの声云々ではなく、靖国には以下のように考えねばならない点があると思う。

まず少なくとも政教分離の原則の上に立つ日本では靖国を「日本国として戦没者を慰霊する施設」と呼ぶことができない。つまり靖国は飽くまでも「一宗教団体」に過ぎず、日本は国としての戦没者慰霊施設を持っていないということになる。靖国を日本を代表する慰霊施設だと信じることは自由だが、それは「そう信じる人」にとってだけの真実であり、そうではない人にとっては靖国は慰霊施設でもなんでもない。信教の自由を認める日本国においてはそれが現実。

さらには靖国に祀られるのは日本で国家に殉じた戦没者とのこと。つまり兵士などの戦争に従事した人は祀られているが、空襲などによって亡くなった人などは祀られていない。つまり靖国神社は本当の意味での「戦没者慰霊」のための施設ではない。

ゆえに戦闘に参加していなくても、戦争に巻き込まれて死んでいった人をまとめて慰霊する施設を作り、そちらを「日本国としての戦没者慰霊施設」であるとした方が良いのではないか。国のために戦って亡くなった人たちを慰霊することに異を唱えるつもりはない。しかしそれ以外の、巻き込まれて死んでいった人たちもまた日本国民だったわけで、それをないがしろにするというのはいかがなものか。

脱線だが、靖国神社ではどんな理由があっても分祀してくれないというのも問題視されている。寺の住職が徴兵されて戦死し、その遺族が住職を神ではなく仏として供養したいから分祀して欲しい、と申し出をしたこともあるらしいが、却下されたとのこと。これが「信教の自由に反する」という話もある。

失礼を承知で言わせてもらえば、ぶっちゃけ、成り立ちはともかくとして現状ではたかだか明治に出来た一新興宗教団体でしかない靖国に*2、なぜにそれほど固執するのだろうか。国が国として戦没者慰霊施設を作る。これで丸く収まると思うのだが。


少し話は変わり、A級戦犯問題について。彼らは政治家や公務員であり、戦後処理の過程で亡くなった*3。つまり彼らは戦争そのもので亡くなったわけではないので「戦没者」ではないのだ。ゆえに「戦没者」を祀るのであればA級戦犯と呼ばれる人たちは除いてしまってもいいんじゃないかなあと。詭弁かもしれないけど。

戦犯は戦犯で別に祀って、首相として参拝したければする。そうすれば問題が明確に分化できるのではないだろうか。それでも参拝する度胸のある首相がいれば、それはそれで凄いと思うよ。


どちらにしても、今みたいに曖昧な状態で参拝されても、戦没者も戦犯として亡くなった人たちも浮かばれないんじゃないかな。

追記

生き残って戦後の日本を復旧してきた世代は英霊じゃないのか、とか。

確かに。

関連

*1:慰霊というもの自体極めて宗教的な行為なのだが。ここで言う無宗教というのは「特定の宗教によらない」ぐらいの意味で。

*2:戦後に国が切り捨てた、とも言える。

*3:そもそも自体事後法で裁かれたものなので裁判自体無効であるとかいろいろ議論はあるようだけど。