コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

ずるい写真

白黒写真。これはずるい。

どんなに普通の風景や物、人でも、白黒になるとそれだけで時が止まり、退廃感が生まれ、どことなく芸術的に見えるようになる。もちろん鮮やかな色が感覚を強く刺激することはある。しかし色に乏しい何気ない写真でも、白黒にするだけで映えることがある。足りない色は人の想像力を刺激するのだろうか。人が「欠落」に目を奪われるように、色を失った非日常的な絵が無意識に人の感覚を刺激するということは否定できない。

しかし白黒写真というのは面白い。常なら見えぬ色の差による境界が目に見え、逆に目に見えるはずの境界が朧になる。そこまで意識して白黒写真を撮れる人は本物だと思う。色付き写真でさえ仕上がりを想像できない私には脅威の境地だ。そういう「予測」まで完璧にできる人でなければプロとは呼べないと思う。素人でも偶然にいい写真が撮れることはあるが、プロはその偶然を必然として写し取ることのできる人なのだと。


魚眼レンズ。これもずるい。

どんなに普通の景色や事物、人間でも、魚眼レンズで写し取ることで歪みを生じ、バランスを崩し、正常さを失い、どことなく芸術的になる。誰が何を撮ってもそこそこ絵になる。常ならぬ絵はこれまた人の意識を刺激するのだろう。歪に引き伸ばされた手足は人を簡単に化物に変え、丸く収縮され閉じ込められた景色は手のひらの中に世界をもたらす。なんて言うとかっこよく聞こえるが、実際魚眼レンズで写した写真はかっこいい。かっこよく見える。だから、ずるい。

しかし魚眼レンズで「面白い写真」は撮れても、「感動させる」写真はなかなか撮れない。それはしょせんは「色物」でしかないのかもしれない。その色物をもってして人を感動させる写真を撮れる人こそがプロだと思うし、逆にコンパクトカメラでも、魚眼レンズ以上に人に衝撃を与える写真を撮れる者もまたプロだと思う。


どちらもずるいと思うけど。嫌いではないです。