「新真夜中の王国」という番組があった。深夜0時前後にNHKのBS2で放送していたその番組。基本的にはトーク番組で、各界の様々な人がゲストとして登場する番組だった。一線で活躍する人をゲストに呼ぶトップランナーと違い、微妙にマイナーでマニアックなゲストが多かった。
当時、新しいもの、変わったものに貪欲な欲望を燃やしていた私は、貪るようにその番組を見ていた。新しい音楽、見知らぬアーチスト、舞台や芸術。その選択は、度々私のツボを突いた。PVや紹介が流れるだけではなく、アーチスト自身がゲストとして登場し、その道について語っていく。歌番組のように歌を歌ったりはしない。流れてもせいぜいがPV。とにかく語るのだ。他のトーク番組では雑談や出来事などを語ることが多いが、この番組ではそのアーチストが作っているもの、考えていること、今に至った経緯など、しっかりとアーチストとしての質問を受け、答えていた。普段ちゃらちゃらして見えるアーチストでも、この番組ではしっかりと語っているのを見て、印象が変わったことなどもあった。
昨日、椎名林檎の話などをしていてその番組のことを思い出した。椎名林檎のPVをはじめて見たのは、その番組のトークの合間に流れる「Recommend」のコーナーだった。スガシカオもボニーピンクも小島麻由美もエゴラッピンもその番組で知った。ゲストとして小島麻由美が登場したことや、番組のエンディングでスガシカオの「Sweet Baby, Half」が流れていたこと、「Recommend」のコーナーで流れていた「Heaven's Kitchen」や「黄金の月」のこと、今でもよく覚えている。
その「新真夜中の王国」がいつの間にか終わっていた。確かにここ最近は新しいものへの欲求も途絶え、番組を見ることもほとんどなくなっていた。しかしまさか終わっているとは思わなかった。地味だが、他にあまり例のない良い番組だったのに。
最近叩かれることの多いNHKだが、あのような番組を作ることができるのはNHKだけだと、私は評価していた。しかしその番組はもうない。渋いアーチストが登場しまくっていたJust Pop Upが終り、代わりにはじまったポップジャムは軽いアーチストしか登場しなくなった。ソリトンの後にはじまったトップランナーはいまいちつまらない。江川紹子氏が聞き手になって行われた数時間にも渡る若者討論番組は非常に興味深かったが*1、しゃべり場は無秩序なガキの戯言ばかりで面白くない*2。
けっきょく真夜中の王国が無くなった穴は、映画などを流してお茶を濁しているようだ。私が求める渋くてマニアックな番組がNHKからどんどん消えていってしまう。叩かれて世間に迎合しているのであればとんだ筋違いだ。民放では出来ない、非商業主義の番組を作ることこそが、NHKの使命だと思うのだが。