コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

天野可淡

KATAN DOLL(カタンドール)
伝説の人形作家と呼称されることもある天野可淡。妖艶でグロテスクとさえ言われる球体関節人形や絵画などを残しているが、1990年にバイク事故により返らぬ人となった。その死に方ゆえに伝説と呼ばれているところもあるが、やはりその作品の持つ独特な感性こそが天野可淡をして伝説と呼ばしめている。

球体関節人形といえば、四谷シモン吉田良などが有名らしいが、私の中ではベルメールを除き、この天野可淡の作品は別格だ。その存在感、威圧感、人を寄せ付けぬ崇高かつ堕落したオーラのようなものは、他の人形作家の作品にはない。女性だからこそ作り出せる、幻想ではないリアリティを持った妖艶さがそれらにはある。憂いに満ちた表情の女性、感情を失った少女、天使のような悪魔のような少年。ある種の狂気と正気の境界をそこに感じる。動きそうな、とか、呪われそうな、などという陳腐な言葉は彼女の作品には似合わない。意味さえいらない。ただそこに存在するだけで、形あるだけで何かを表現しているのが彼女の作品だ。


彼女の存在をはじめて知ったのは「ワーズワースの森」だったか「ワーズワースの冒険」だったか。その番組を放映した当時、既に彼女はこの世の人ではなかった。奇妙な猫が案内する天野可淡の世界。それは幻妙で蟲惑的だった。当時とにかく「変わったもの」を欲していた私は一瞬で目を奪われた。しかしそれは瞬間的な印象だけで終わることなく、私の中に深く根をおろしいまだに在り続ける存在となった。

彼女が40歳を待たずして亡くなったというのは酷く惜しい。また、彼女の作品を出版していた出版社が潰れ、彼女の作品集はすべて絶版となり、再販の可能性もいまのところないという。私は1冊だけ、彼女の作品集を持っている。当時お金もなかった私には、その1冊を買うのがせいいっぱいだった。しかし今思えば、もう少し無理をしてでも他の作品集も手に入れておくべきだったと思う。価値が出るとかそういうことではない。単純に純粋に、彼女の作品を手元に残しておきたかった。

その前に、実はまだ彼女の人形の実物にお目にかかったことがない。ともかく一度実物が見てみたい。

関連サイト