コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

希薄なる関係

以前に、ネットでやり取りをしていた人との関係が切れた話を書いたが、これはもう少し後の話。

一時期、なんとなくまたチャットがやってみたくて、しかしチャットソフトで入ってもなんだか会話に参加できなくて、1対1の会話でもできないものかと、メッセで話す相手を探してみた。探すといっても宛てがあるわけでもなく、某巨大掲示板の話し相手募集のスレを見て探すことにした。

とりあえず自分のプロフィールを投稿してはみたが、梨の礫。やはり、というか、当然、というか、男相手にアクセスなどなかなか来るものではない。しかもバカ正直に年齢やプロフを書いていたのでなおさらだ。三十男に好き好んで話し掛けてくる者など滅多にいるわけがない。

勇気をふるい起こして、そのスレに載っていた何人かにアクセスしてみたりもした。以前は女性に対してそのように話し掛けるのは気が引けていたが、メッセでは逆に男性に対して話し掛ける方が難しい気がした。1対1で男相手に何を話せばいいのかわからなかったし、なんとなくホモっぽいなどと奇妙な偏見にとらわれていたことは否めない。

ともかく何人かの相手に話し掛けてみた。やはり全体的に年齢層は若く、私と同年代の者はほとんどいなかった。時間をもてあましている学生などが多いようだった。しかし、続かないのだ。話が続かない。連絡もすぐ途絶える。2、3度話しては終わる。誰と話してもそんな感じだった。

私の会話がつまらなかったのか、あるいは自分でそう思い込むことで会話をつまらなくしていたのか。自省はときには己を客観的に見つめ、ステップアップにつながるが、自虐は何も生み出さない。ただ己を殺すだけだ。それはわかっていてもなかなか自虐を抜けることはできない。そして会話が切れるたびにその自虐は深まっていった。

そんな中でも、たった一人だけ、わりと会話が続く相手がいた。東北に住むという20代半ばの女性ということだった。普段はお店で働いているが、趣味でイラストを描いたりしていて、ネット上のとあるイラストサイトでは殿堂入りするくらいの腕を持っていた。また、小学館だか講談社だかの編集者から「漫画を書かないか」と直接オファーが来たこともあったらしい。しかし本人はデザイナーになることが夢だったので、その漫画家の話は蹴ったそうだ。そして、デザイナーになるため、近いうちに東京に出るつもりだ、と言っていた。

私も落書程度の絵を書いていたので、それを彼女に見せたらやけに気に入ってくれたようだった*1。社交辞令であろうことはわかっているが、それでもなかなか人に認められたことなどなかったので、悪い気はしなかった。しかもきちんとイラストが描ける人に認められたので、なおさらありがたかった。ちなみに、本気か冗談か社交辞令かはわからないが、私のイラストを出版社に売り込んであげようか、とまで言われた。さすがにそれは丁重にお断りしたが*2

その相手との会話は、会話をするといっても、たいていは顔文字で意味のないボケツッコミをしていることがほとんどだった。快活でテンションの高いその人は、他にもたくさんネット友達がいるらしく、一度メッセのグループに誘われて行ってみたら、こちらが気おされるくらいものすごいテンションの高い人ばかりで驚いた。またときには、恋に悩む男子高校生の相談に乗ったりもしていた。

その人が、ある日を境にぱったりとメッセに来なくなった。ホムペも教えてもらっていたのだが、それも消滅していた。メールを送るにもhotmailのアドレスくらいしか知らない、そもそもメールを送って安否を確認するほどには親しくもない。けっきょく何がどうだかわからないままに連絡は途絶えた。

もし、リアルで何か問題が発生し、ネットができなくなったとか、私だけアクセス拒否くらっているのなら、突然ホムペが消えるということはないだろう。恐らく、彼女は夢をかなえるために東京に出たのではないかと思う。そのときにプロバイダを解約し、ホムペも消えてしまったのではないかと思っている。それに合わせて、それまでのネット上の関係を清算したのかもしれない。

またどこかでひょっこりとメッセに顔を出してきたりするかもしれないし、あるいは新たなホムペを立ち上げたのを見つけることもあるかもしれない。あるいは彼女が過去のネット関連を清算したのであれば、このままもう一生出会うことはないかもしれない。どうであるにせよ、彼女が元気でがんばってくれていればいいのだが。

しかしともかく、ネット上の関係など本当に希薄なものなのだと痛感させられた。けっきょくそれ以来、メッセはやっていない。

*1:どんな落書かはちょっとダメすぎて公表できない。

*2:絵の勉強もまともにしたことないし、コンスタントに描けるわけでもないから無理だって。