コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

ウルティマ6

ウルティマ、といえばたいていの人が「ウルティマオンライン」を思い浮かべるに違いない。しかし私は「ウルティマオンライン」をプレイしたことがない。「ディアブロ」もシングルだけしかプレイしたことがなく、それも最後までクリアしていない。ので、そのあたりのオンラインゲームについては何も語れない。

今回は、ウルティマウルティマでも、古いスーパーファミコンのゲーム、「ウルティマ6(以降U6)」。もう10年以上前のゲームなのに、私の中では色褪せていない。私の好きなゲームナンバー5の中に常にランクインしているゲームだ。

現在のゲームはグラフィックも進化し、システムも複雑になってきている。しかし10年前の時点で、U6は、いまでさえ斬新と思えるようなシステムを数多く実現していた。この知られざる名作について少し語らせて欲しい。

まずはストーリー。主人公は勇者ではなく、聖者。宗教がらみの聖者ではなく、正義道徳に忠実で人々の模範となるような人物。もちろん強いし世界も救う。といってもくどくど説教なんかをたれるわけではなく、極めて無口(ゲーム中はしゃべらない)。人の物を盗んだり無抵抗な者を殺すと徳が下がってペナルティを受けるという形でシステムに組み込まれている。

いままで幾多の苦難を解決してきた主人公だが、今回は地下世界からガーゴイルなる、デーモンに似た異形の種族が世界の平和を脅かしはじめた、というのだ。しかも主人公はいきなり敵に召還され、生贄にされそうになる。そこにかつての仲間たちが現れ、すんでのところで主人公を救出する。この世界、ブリタニアの王、ロード・ブリティッシュに事情を聞いた主人公は、六度目のブリタニアを救うための冒険に出発するのであった。

これだけ見るとありがちなストーリーだが、ストーリーのモチーフは「ベトナム戦争」だそうで、そう考えるとガーゴイルの位置がおのずとわかってくるだろう。


ではシステムについて。まずは時間の概念。ブリタニアの世界には時間があり、歩くごとに時間が経過していく。日が昇り、昼になり、夕日が照らし、夜がくる。時間がたてば腹が減り、暗闇では灯りがなくては何も見えなくなる。それだけではなく、その時間に応じて、ブリタニアの人々は生活をしている。それぞれの人は1時間ごと(もしくは30分ごと?)に自分の生活スケジュールを持っていて、それにしたがって行動するのだ。

たとえばとある漁師の一日。朝起きて自宅で朝食、朝9時ごろに波止場に出て仕事。12時から1時は自宅で昼食。夕方6時頃に酒場に行って、8時に帰宅、夜9時就寝、といったような感じ。すべてのキャラが異なった生活時間を持っていて、それに応じて場所を変える。状況に応じて会話も変わったりする。時間によっては、深夜に密会している神父と女性や、夜だけ仕事をする墓堀に会うこともできる。

昼と夜で村人(NPC)の行動が変わるゲームは珍しくないが、ここまで細かく生活を演じているNPCはいまだにほとんどいない。たしかに、会いたい人にさくっと会えなかったりするジレンマはあるが、仕事場に出かけていく後をつけていってみたり、密会現場を除き見したりするのは面白い。それが特別なイベントではなく、日常的に行われているということろに意味がある。

またそれぞれが生活しているということは、全てのNPCに家がある、ということでもある。この細やかな世界設定。リアリティというよりは、生活のモデライズ、とでも言うのだろうか。非常に興味深い。


次に会話。これがこのゲームの肝と言っても過言ではない。まずは話し掛け方からして独特だ。従来のNPCの正面に立って話し掛けるのではなく、会話を選ぶとカーソルが表示され、画面内の会話できるキャラを選択して会話する、といったもの。カウンター越しに話し掛けたりするのも違和感なくできるし、いちいち歩かなくていいので楽ちん。仲間とも会話できる。

会話はキーワード方式。昔のアドベンチャーゲームのように、キーワードを選んで会話をつなげていくものだ。会話を重ねると新たなキーワードが現れ、さらに深い会話につながることもある。ボタン押しだけでは得られないコミュニケーション感覚と、掘り下げた会話を実現している。

基本キーワードは「みる」「なまえ」「しごと」。名前と仕事はそのまま、名前を尋ねたり仕事を尋ねたりで、たいていそこから会話が広がっていく。気になるのは「みる」だ。普通のRPGの会話にはまずない選択肢だ。これを選ぶと、その人物の姿を描写してくれる。いまのゲームだったら、実際に3Dモデリングで人物を細かに表現したりするのだろうが、それでも表現しきれないものをこのコマンドは表現してしまう。どんなに綺麗な女性を3Dで作っても、人によって好き嫌いはあるし、やはりどこか作り物めいている。しかしU6の場合は「気絶するほどの美女だ」と一言描写するだけで、そこに気絶するほどの美女が立つのである。ダンスをする少女に見とれ、ボロ布のような乞食に辟易するのである。

グラフィックスがしょぼい時代の苦肉の策、と言ってしまうのはあまりにも惜しい表現力を持っている。しかもサウンドノベルなどの文章メインのものではなく、RPGでやるから意味がある。それだけで、人が姿を得て、世界が現実味を帯びていく。

さて、本題の会話の内容についてだが、このブリタニア、おどろくほどキ○ガイが多い。ギターの中から蜘蛛が出てくるといって手袋をする女。支離滅裂な言葉を発する老人。素朴さと痴呆の境界にいるような少女。最近はキチ○イが登場するゲームも珍しくないが、たいていがどこか狙っている風で少しわざとらしい。しかしU6のそれはすごく自然なのだ。そして愛すべきキチガ○が多い。このセンスはいったいどこから来るのだろう。海外の作品だからなのか、肉声で喋ったりしないからか、それとも製作者のギャリオットがむにゃむにゃ。とにかくそういうわけで会話が楽しい。ほとんどが無駄話なのだが、それが楽しいのだ。


このゲームの倫理観の根幹には、3つの原理と8つの徳、というものがある。3つの原理とは「愛」「勇気」「真実」で、その組み合わせにより8つの徳が形成される。

  • 謙虚  なし
  • 優しさ 愛
  • 勇敢さ 勇気
  • 誠実  真実
  • 献身  愛+勇気
  • 正義  愛+真実
  • 名誉  勇気+真実
  • 崇高  愛+勇気+真実

道徳観念としてはちょっと単純かつ穿ちすぎな部分があるのは仕方ないが、でもなんだかそれなりに筋が通っているような気もしないでもない。それぞれの徳は時に相反し、究極の選択を迫るときがある。そういうことを考えてみるのも楽しい。この3つの原理と8つの徳の、ゲームシステムやストーリーへの織り込み方も上手い。

元は洋ゲーなので、敷居は高い。最初からどこへでも行けるが、逆にどこから行けばいいのかわからない。ヒントは激しく少なく、全体的に突き放されている。我ながらよくクリアできたものだと思う。なので、いまプレイしたらしんどくてまともにプレイは続けられないかもしれない。
それでも、私の中では強烈に印象に残っている不朽のゲームのひとつとなっていることに違いはない。ちなみに、記憶を頼りに書いているので、間違い、誤解等ありましたらご容赦を。

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