コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

アリーテ姫

NHK BS-hi「アニメ映画劇場」の地味な良作3部作2つ目。

Studio4℃作品だが、例の独特なアクの強さはなく、名作アニメ劇場のようなシンプルですっきりとした絵。元々ジブリ系の人たちとのことなので、そういう雰囲気が出ている。とはいえ細かいところでの動きや表現にはさすがにStudio4℃らしさがにじみ出ている。

舞台は中世ヨーロッパ風のファンタジー世界。王女アリーテは純潔を守るために城の高い塔に幽閉されている。大臣たちはアリーテへの求婚を餌に、騎士たちに失われた技術である「魔法」の品を集めることを求めた。一方、塔に閉じ込められているアリーテはただ黙って運命に従っている「高貴な」姫君では終らなかった。待つだけのお姫様を否定した、童話のアンチテーゼのようなお話。

ちなみに原作はダイアナ・コールスの「アリーテ姫の冒険」という児童書とのことだが、原作とはまったく違う話になっているらしい。なので賛否両論。私は原作を知らないので素直に見ることができたのだが、原作ファンにとってはちょっと納得いかないものになっているらしい。

予想通り、派手な作品ではない。しかし予想していたほど穏やかな作品でもなかった。アリーテ姫のキャラクター性が作品の方向性を全て決定付けている。この姫と城の者たちや街の者たちの「会話」をもっと見てみたかった。

アリーテ姫 [DVD]

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アリーテ姫の冒険

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  • 作者: ダイアナコールス,ロスアスクイス,グループ・ウィメンズ・プレイス
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アリーテ姫 = PRINCESS ARETE =
screenshot


以下バレ。


王女である境遇、幽閉された境遇にありながら、「私にできること」を求めるアリーテ。アリーテはただ黙して待つのではなく、塔を抜け出て街へ繰り出し、外の世界に触れようとする。そこに当たり前にある、自分の生活とは違う市民の日常への羨望。さらなる外の世界に対する憧れ。いわゆる青年期のモラトリアムとでも言うのだろうか。それともそういう「寓話」を想定せず、素直に物語として見た方がよいのだろうか。

序盤、部屋に忍び込んできた騎士たちとアリーテ姫の会話。単なる我侭やお転婆ではなく、きちんと考え、選び自分の言葉で返す姫。こういうの好きです。

王女が主人公で、古代の魔法に関するお話でありながら、この物語は世界の崩壊とも国の興亡とも関係ない、すごく小さな場所での出来事として展開していく。アリーテ姫と魔法使い。このまったく対照的な二人が実は似た物同士というところが面白い。「私のことが自分のことのようによくおわかりになるのですね」から始まるシンクロ。「来てくれぬ者を待っている」「来なければ永遠に待ちつづけることができる」「ただの退屈しのぎ」。アリーテ姫の言葉の全てが魔法使いの言葉にもなっている。こういう対比は面白い。

愚鈍の魔法をかけられたアリーテ姫。おしとやかで高貴な、「皆が求める」王女となった。顔も美人になったし、身なりも綺麗になった。でも見ている者にとっての魅力は失われた。地下室に幽閉されながら、序盤の塔での物語を回想し覚醒していく辺りはちょっとゾクゾク来た。そして我を取り戻したアリーテ姫の意思と行動力と機転が心地いい。

先にも書いたが、姫と人々との語らい、城に住む頭の固い大臣や、国を盗ることしか考えていない騎士たち、一生懸命生きている市井の民との会話なんかをもっと見てみたかった。魔法アイテムのこともあるし、テレビシリーズにしても通用したんじゃないかな。

ただ「王女としての自覚」というものについてはちょっと疑問符。王女には王女にしかできないこともあり、それは責務でもある。ただこの国では姫には何の権力も与えてもらえそうにないので、それも難しいのかな。

残酷なシーンなんかはないし、子どもと一緒に見ると良い作品かも。


余談だが、アリーテ姫の声って桑島法子さんだったんですな。スタッフロール見るまでわからなかった。「電脳コイル」の勇子や「魔法少女隊アルス」のシーラなど気が強いキャラのイメージが多いけど、こういう穏やかにしゃべる感じも上手い。「彩雲国物語」みたいなテンション高めの役もやってるし*1。多才だなぁ。

*1:見てないけどね。