コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

合祀、分祀、廃祀

靖国問題でよく目にする「合祀」、「分祀」という単語。しかしこれ、本来の意味と靖国での使われ方とでは微妙に違うので前々からちょっと気になっていた。ということでなんとなく靖国とからめながら。

合祀*

一般的に神道で言う合祀というのは、ひとつの社に複数の神を祀ることを言う。あるいはある神社に別の神様が「間借り」することを言う。

靖国神社の場合、英霊として祀る人を名簿に追加することを「合祀」と呼んでいる。誰を合祀するかは戦前は軍が、戦後は厚生省が決めていたとのこと。

ちなみに神道では大宰府天満宮や日光東照宮のように人を神として祀ることは珍しくはない。上記のような合祀も珍しくはない。しかし靖国や護国神社のように、名もない多くの人を集団として神のように扱うというのは普通の神道にはあまりない、明治以降に主流になった考え方なのではないかと思がどうなのだろうか。

分祀*

分祀とは、祀られている神様を別の神社に祀ること。いわゆる「のれん分け」のこと。有名な神社はたいてい分祀されていて、日本中に同名の神社がある。

よく「A級戦犯分祀しよう」とか「遺族が靖国に祀られている家族の分祀を求める」なんていう話を聞くが、言葉通りの意味で分祀なんかしたら増えちゃうよ。

複祀

一方で、合祀された神様を別々に祀るようにすることを「複祀」というそうだ。分けるだけでなく、分けて別のところで祀る、というニュアンスがあるみたい。

廃祀

文字通り祀りを廃すること。神社を取り潰してしまうこと。神道でも、合祀されている神を外すときにも「廃祀」という言葉を使うようだ。

靖国問題に関しては「A級戦犯を廃祀」などというフレーズもときどき目にする。分祀だと増えてしまうので、除名するなら廃祀の方が確かに適当かも。

遷座*遷宮*

神を他の社に移すこと。遷宮は主に伊勢神宮での遷座で使われるらしい。これは靖国とはあんまり関係ないけど、関連用語として。

あとがき

合祀にせよ分祀にせよ、靖国問題で使われる場合、本来の神道での使われ方とはかなり違う意味になっているようだ。これはたぶん、靖国自体が普通の神道とかなり異質なものであるがゆえ、だろう。

なお、靖国では一度合祀されたものは分祀はできない、という話がよく出てくるが、これは宗教的に無理というよりも、どちらかというと靖国の政治的な理由によるもののようだ。そもそも合祀するときにも、靖国が決めるのではなく国が決めて合祀している。それを靖国が勝手に分祀することはできない、ということらしい。あるいはA級戦犯については、靖国の宮司が公式ホムペで「国内においてはA級戦犯は犯罪者ではないから分祀する理由がない」と述べている*1。まあそんなわけで宗教的に無理、ってことでもないみたい。

関連

*1:[http://www.yasukuni.or.jp/siryou/siryou5.html:title]