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鳥取県議会が人権救済条例案を可決

鳥取県議会は12日の本会議で、全国初の「県人権侵害救済推進及び手続に関する条例案」を賛成多数で可決した。人権侵害の調査、救済にあたる第三者機関を設け、罰則や氏名公表などの権限を持たせる内容。県は06年6月1日の施行までに、規則や委員会事務局の構成などを詰める。

うわー。可決されちゃったよ。自分の生活に直接かかわりがあることはめったにないとは思うが、鳥取で暮らしていくのがなんとなく息苦しくなりそうだなあ。

条例の内容はこちら。


   議員提出議案1号「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」


人権擁護法案でも議論されていることだが、この条例はある特定の思想を持った団体に対して、簡単に「警察+司法」以上の権限を与えるということに他ならない。例えば人権侵害調査の第三者機関メンバーと関わりのある団体に対して「資金を不正に運用している疑いがある」とか「脱税している」とか「犯罪者を匿っている可能性がある」などと告発や指摘した場合でも、「それは差別的発言だ」と委員会が判断してしまえば、告発した側が調査を受け罰則が適用される可能性があるということ。少しでも「差別されている」という立場さえあれば、その団体に対する不利な言動は全て封殺できてしまう。

差別の定義もされず、どのようなケースが問題であるかも明示されていない。そんな状態で警察や司法よりも強い権力を、誰が選ばれるかも曖昧な「委員会」なるものに与えてしまうということ。

ちなみに委員の解任についてはこんな感じ。

(身分保障)
第9条 委員は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いて、在任中その意に反して解任されない。
(1) 禁錮以上の刑に処せられたとき。
(2) 委員会により、心身の故障のため職務の遂行ができないと認められたとき、又は職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認められたとき。


(解任)
第10条 知事は、委員が前条第1号に該当するときは、その委員を解任しなければならない。
2 知事は、委員が前条第2号に該当するときは、議会の同意を得てその委員を解任することができる。

市民が署名などで直接に委員を解任させることはできない。「委員たるに適しない非行」という表現もあいまいでよくわからないし、仮に不適正とされた場合でも議会の承認を得るというプロセスが必要。そもそも誰が不適正と判断するかも示されていない。いや、文脈からすると「委員会により〜職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認められたとき」と読めるのか。委員会内でお互いの適正を判断? ありえないだろ、それは。

正当な理由なく調査を拒んだ人権侵害の当事者には5万円以下の過料を科し、勧告に従わない場合は氏名・住所を公表できるなど、委員会の強制力は大きい。当事者は勧告と氏名・住所公表の際の2回、事前に弁明する権利はあるが、過料の際は抗弁の機会はない。

これも酷い話だ。まったく身に覚えのない誤解や言いがかりの場合でも、見られたくないプライベートまで調べられてしまうということ。それを拒否れば過料や氏名公表の罰則。弁明の機会はあるとは言うが、その弁明が簡単に受け入れられるとはとうてい思えないし、調査を拒否ったらそれだけで制裁を食らうんだから弁明できても意味がない。委員会に目をつけられたが最後、それが誤解であっても、難癖であっても、委員会メンバーの策略であっても、もう抗う術がないってこと。誤解や意図的な難癖を回避したり監視したりする仕組みは提示されてないわけだし。ひどいなー。

「条例が完全でないのは分かっているが、運用しながら修正していけばいい」

これもとんでもなくいい加減な話だ。人権侵害調査委員会によって人権侵害が起きる可能性があるというのに、その指摘は無視して「問題が起きれば修正すればいい」ってどういうことよ。人権問題対策するのは必要なことかもしれんけど、やるならやるで絶対に悪用できないように、もっときっちり明確にしっかりはっきりとザルの目を完全に塞ぐようにして作らねばなるまい。「問題があったら直していく」で済む問題じゃあないだろ。

去年末から継続審査はされていたようだが、議案提出は10月5日。可決が10月12日。条例可決の経緯を詳しく知っているわけではないが、上記引用の一言からしても、可決までの日数からしても、鳥取県がこの条例の問題や危険性をきちんと議論し尽くせたとはちょっと考えにくい。


いままでいろいろなことで叩かれてきた鳥取県だけど、特に気にはしてこなかった。でも今回のはほんとに良くない。「鳥取県民です!」って胸を張って言えなくなってしまったような気がする・・・。

追記

と思ったらこんなのできてるし。「NO!鳥取 行かない。買わない。関わらない。」だってさ・・・。


   

追記2

採決に先立ち、片山善博(かたやま・よしひろ)知事は「どうしても最後まであいまいな表現が残る。運用を間違えれば人権侵害が起こるので、議会やマスコミがチェックしなければならない」と答弁した。

そこは「議会やマスコミ」ではなく「議会や県民」とすべきじゃないのかな? 県民置き去りでやっていくってことかしらん。それとマスコミは報道機関であってチェック機関にはならないだろうに。

「条例が完全でないのは分かっているが、運用しながら修正していけばいい」と言いつつ「運用を間違えれば人権侵害が起こる」ということは、運用の失敗によって人権侵害が起こるということを前提でやっていくってこと? 条例によって人権侵害が起きたとしても、それを議会やマスコミにチェックさせて修正していけばいいってことですかね? なんだかなー。

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