コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

陰陽師 (12)

陰陽師 (12) (Jets comics)

陰陽師 (12) (Jets comics)

とうとう出ました12巻。何ヶ月ぶり、いや何年ぶりなんだろうか。待ちに待っていたが、待ちすぎて以前の話を忘れてしまったよ。忘れてしまったというか、数巻前くらいから内容がかなり小難しくなって、読んでもほとんど理解できていなかった。というわけで11巻を引っ張り出して読み直そうとしたのだが、それでも思い出せないし理解できない。仕方ないので10巻まで引っ張り出してきて読み直すことにした。それでも到底理解できたとは言えないが、大雑把な流れはなんとなく思い出せた。

ともかくここ何巻か、非常に何回で抽象的な話が続いていた。物語と言うよりはむしろ漫画そのものが一つの呪(しゅ)、呪文、呪言、祀り、儀式、魔術のようで、正直なところ岡野玲子がかなり遠くの方に行ってしまったような気がしていた。すげー、とは思うのだがとてもついていけないし、理解もできない。それでも初期の面白さを頼りに買いつづけていた。

そして、期待は裏切られなかった。12巻、相変わらず難解なところもあるけれど、物語の流れが戻ってきた。久々に陰陽師を読みながら声を立てて笑ったよ。そして今回、二つの驚きが。


一つは「小さき人」の登場。出産の経緯がなく、いきなりの登場だったので少々面食らったが、晴明の親バカっぷりが楽しい。


もうひとつの驚き。安倍晴明を語るときには決してはずせないあの人物の登場。

いままで晴明の対峙者としては菅原道真が登場していたわけだが、これは「悪」というよりは「荒御霊」として描かれていた。晴明も道真には一目置きつつ、軽くあしらっている感じで、「敵」というほどの感じでもなかった。

しかしここに来て出てきましたよ。芦屋道満安倍晴明を語るときには欠かせないもう一人の陰陽師。ここのところ話が「柱を立てる」だの「闇に降りていく」だの、妙に抽象的なところへ行っていたので、道満の存在などすっかり忘れてしまっていた。それが突然、ひょっこりと、唐突に、そして劇的に登場した。あの浜辺での登場シーン、鳥肌が立った。

ふつう道満は髭面のオッサンとか、良くてもスカシタ青年として描かれていたのだが、陰陽師に出てきた道満は白比丘尼の姿をしている。真珠色の肌、左右色の違う眼、華奢な体。いままでの道満とはかけ離れた存在として描かれている。一方でいわゆる道満の様相は、それに付き従う「智徳」という僧侶の姿として描いている。この辺りの摩り替えが絶妙。

具体的に道満が何を目的とし、晴明に対して具体的にどう仕掛けてくるのかはまだわからないが、しかし敵対者であることは間違いない。「浜へ行くな、磯へ行くな」という真葛の言葉と不安がそれを煽る。


道満は白比丘尼の姿をしてはいるが、体つきを見る限り男性ぽい。白比丘尼が「父は道満といいます」というようなことを言っていたこと、道満自身が「私を白比丘尼と呼ぶがいい」と言っていたことからみて、これって男性、白比丘尼の父、ということなのだろうか。海から出てきた光る人、とうところで既に人ならざるモノのようだが、果たして。


少し残念なのは、晴明と真葛がデキてしまい、また儀式の最中に博正がボーイズラブっぽいく晴明にドキドキしてしまったことから、二人の関係が以前のような純粋なボケツッコミの仲ではいられなくなってしまったこと。有体に言ってしまえば、二人の距離が離れてしまった。

また真葛についても、相変わらず微妙に毒舌を吐いてはいるものの、以前の近づくモノ皆傷つける尖ったナイフのような切れ味は、なりをひそめている。晴明にデレデレの真葛なんて。これがツンデレってやつですか?

話が進めば人の関係も変わってくるのは必定なのだが、ちょっとなんか寂しい気もする。


ところで、晴明が4方と中心にいる神々の名を口にしたとき、中央にいたのがオオナムチ(大己貴神)だった。オオナムチというのは別名オオクニヌシ(大国主)。因幡の白兎伝説に出てくるいわゆる「大黒様」だ。だからあのくだりで「大黒」という言葉が出てきている。それは晴明が完全なる闇に下っていくことに繋がっているようだ。

ここで朝廷方の神であるアマテラス(天照)ではなく、オオナムチが出てきたのはちょっと意外アマテラスは最後の最後に残してあるのかもしれないけど。


エジプト、ギリシャに話が飛ぶのは賛否両論のようだ。どちらかというと否定的な意見が多い感じ。私も陰陽師の世界観で「前世」や「過去の運命」を語ってしまうのはちょっと違うような気もした。

エジプトについては晴明と真葛との関係、ギリシャについては晴明と博正との関係の前身という感じ。ギリシャでは晴明が女性になっていたのが微妙に違和感。あの辺りは単にそのエピソードを語りたかったから入れてみた、というところだろうか。


さて、12巻完結と銘打たれていた本作だが、けっきょく12巻では収まりきらなかったようで、秋に13巻が発売されるとのこと。12という意味のある数字で収めることに意義があったとは思うのだが、まあ仕方ないだろう。グインサーガだって100巻越えてるし。これもまた大いなる意思の気まぐれなのかもしれないし。

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