こういう陳腐な言い方はあまり好きではないが、こうとしか形容できない。
小島麻由美は天才である。
彼女が努力をせず才覚だけですべてを作り上げているとは言わない。しかし彼女の曲は、努力や汗臭さを感じさせず、まったくの自然体。世間に迎合せず、彼女自身が「心地よい」と思う音楽を作りあげた結果が、万人にも心地よさを与える作品となっている。
彼女の曲の基本はヨーロッパの古い音楽とジャズ。それが巡り巡って「昭和歌謡」に似ていると評されることもあるが、それは彼女の本意ではないようだ。「オルタナ歌謡」という肩書きは私も好きではない。
その懐かしい匂いの曲に、彼女の幼く聞こえるも艶のある歌が乗る。淡々と、しかし存在感のある声。曲調によって大人びて聞こえたり、子供じみて聞こえたり、実に不思議な歌声だ。
彼女の特徴とも言えるスキャット。スキャットは声からストーリーを取り除き、ひとつの純粋な楽器に仕立てあげる。彼女の曲と歌声だから許されるその主張なき旋律。さらには歌さえ消え、インストロメンタルな曲もある。それでもしっかりとしたおだやかな確かさが、彼女の曲にはある。