コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

百鬼夜行抄 (12)

百鬼夜行抄 (12) (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)

百鬼夜行抄 (12) (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)

今市子の妖怪漫画の最新刊。いつの間にか出ていたのに気付いてようやく買って読んだ。今作では律と司の関係や、律の父の過去など、割と突っ込んだところに話が及んでいた。相変わらずの巧みプロットと美味しいキャラたちの饗宴。ただ、最近ちょっと絵が雑になってきたような気もしないでもない。小さな人物がなどが書き込まれていないのがちょっと気になる。

以下ネタバレあり。



先にも書いたが、今回は人間関係についていままであまり深く触れられなかった部分にいろいろと触れていたように思う。

まず律の父の過去。父の親族とは絶縁関係にあった律たちだが、今回はその経緯と理由が明らかになる。父が死に、そこに青嵐という妖怪が乗り移っているというのは一種の悲劇なはずなのだが、物語の冷たく軽いテンポによってそれがさらりと流されていた。しかしこうやってはっきりと「過去の父の姿」が表現されると、やはり一抹の切なさが漂う。

いままでの物語の中では祖父ばかりクローズアップされて父の話はほとんど出てきたことがなかったが、今回はその父がクローズアップされていた。父にもやはりドラマがあり、運命があり、そして律を見ていたのだなぁという淡い感慨が残った。


次に、司に突然恋人が出来た件について。恋人といってもプラトニックな関係のようだ。というより、「その関係は恋人と呼べるのか?」というような距離を感じる。しかし案外に彼氏と一緒に無邪気にはしゃいでいる司の姿もあったりして、司も悪くは思っていない感じ。律にとっても、そしておそらく多くの読者にとっても「なんだか納得いかない」と思わせるような展開である。

しかしそうやって「対立候補」を持ってくることによって、律は司への思いを急速に強く意識しはじめたようだ。追い討ちをかけるように、桜の話で妖怪たちが、律の司への恋心を暴露し、司がそれを利用していると語る。「嘘に真実を混ぜて語る」という妖怪たち。果たしてどこまでが真実なのかわからないが、少なからず二人の心に動揺を与えてはいるようだった。

その後の「代わり身」の話の最後で、律の司に対する気持ちが独白される。「たとえお互いに結婚しても、司ちゃんは僕を助けてくれるだろうし、僕も司ちゃんを必ず助けにいく」と。二人の関係は恋愛でもなく、単なる従兄弟でもなく、ある種の運命によって結び付けられた共同体のようなもの。そういう表現がされているように思う。この律の一言で司との関係はある意味で完結してしまった。一読者としては司と律の、恋と親戚と喧嘩友達の境界線をうろうろとしているところがじれったくも面白かったので、その部分を解決されてしまうとちょっと寂しい。


司に恋人ができたし、律もシャーマンの女性に司に対するものとは違う恋に近い感情を抱いたりしていたし、いままで曖昧に描かれていた人間関係を明確にすると同時に、それを再編成してしまった一冊だったのではなかろうか。まあ淡々としたキャラたちなので、そういうはれた惚れたがあっても雰囲気がほとんどかわらないというところは良いところでもあるのだが。今後どうなるか気になるところ。

まさかこの流れで最終回に突入、なんてことにはならないよね?