コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

ハウルの動く城

ロマンアルバム  ハウルの動く城
ようやく見てきた。突っ込みたいところはいろいろあれど、充分満足。書きたいことがいろいろありすぎてうまくまとめることができるかどうかわからないが、とりあえず書いてみる。かなりネタバレなので見てない人は注意。



総評としては、テンポもよく笑いも冴えていて、しっかりと楽しめる作品だったと思う。しかし一方で、宮崎アニメらしからぬ未消化な部分や判りにくい部分、唐突な展開もあり気になった。またこれは今までの作品にも言えることなのだが、過去の作品と良く似た、悪く言えば二番煎じのようなシーンや設定、展開も目についた。とはいえ今までの宮崎アニメにはないエッセンスも盛り込まれていた。それは「恋」と「少年の成長」。


いままでの宮崎アニメにも恋がからむ話はあった。シータとパズー、キキとトンボなどの淡い恋が描かれていた。大人の恋愛といえば「紅の豚」だが、あれは当事者が老成していて、ときめくような恋ではなくもっと大人の恋だったし。しかし今作では、そのどちらとも違う「若者の恋愛」につながりそうな恋が描かれていた。

ラスト付近で連発されたキスシーンがそれを顕著に表している。キスシーンといえば「紅の豚」にもあったが、あれは恋心はこもっていても「別れの挨拶」「おまじない」のようなものだった。「好き」で唇を重ねるというこそばゆいキスは今作がはじめてだったのではないだろうか。


もうひとつの「少年の成長」。いままでの宮崎アニメの主人公となった男性キャラは、登場時から勇気と強さと活力に溢れた完成された存在だった。パズーしかり、ポルコ・ロッソしかり、ハクしかり、アシタカも劇中で成長していくとはいえ、最初から強い意志と決意を持ったキャラクターだった。しかし今回は違う。ハウルは強い力を持ちながら、荒野の魔女やサリマンを恐れ、見た目にこだわり、力を無為に浪費するだけの若者だった。そのハウルがソフィーと出会い、守りたいもの、守るべきものを得て強く成長していく。そういうところも目新しい点だと感じた。


さてでは気になった点。批判をしたいわけではない。ただ気になったところ。まず二番煎じ的な部分について言及しよう。これはもうある意味宮崎アニメの定番となっているのだが、以前の作品で見たこと有るような設定や展開が、このハウルにも随所に見られる。あるいはそれは意図してそういうものを練りこんでいるのかもしれない。ただそれがスターシステムのような効果的なものではなく、「なんか前と同じだね」という印象を与えてしまっていることは否めないだろう。

例えば・・・、ハウルがはじめてソフィーと出会い逃走するシーン。ドキドキワクワクの見ているだけで楽しいシーンだが、これは「千と千尋の神隠し」でハクが千尋を油屋に連れて入るときの雰囲気にそっくり。荒野の魔女は湯婆々を思い起こさせるし、ハウルが空を飛ぶときの鳥の姿も湯婆々の変身とそっくり。ソフィーの優しさに触れて、いろんなモノがどんどん仲間になっていくのも、千尋に坊や湯バード、カオナシが着いて行ったのに似ている。ハウルが鳥の姿で飛び回り、傷ついて帰って来て横たわる様はハクが龍になって帰ってきたところと同じ。荒野の魔女がソフィーのポケットに忍ばせた呪いは、銭婆々がハクに仕掛けた呪いを想起させる。ハウルの幼少時や、王宮のサリマンに仕える少年たちの髪型や姿はハクそっくり。というか、宮崎駿はおかっぱ頭の美少年を気に入っているのだろうか。キスで呪いが解けるのは「紅の豚」で一度やっているし、飛行機に乗っての追撃も「ラピュタ」で見たことあるような感じだった。声優も、我修院達也美輪明宏加藤治子など、以前の作品を意識させてしまうものが多かった。無理やり似ているものを見つけようとしているわけではない。見ていて実際に前作を思い起こしてしまったのだ。


もうひとつ、大きく気になったのが「設定の未消化」と「わかりにくさ」、そして「唐突さ」だ。今までの宮崎アニメは非常にわかりやすい作品が多かった。少々難解だと思われる「もののけ姫」でも、ちゃんとつじつまはあっているし、それほどの唐突さはなかった。しかしハウルは、原作に合わせるためなのか、あるいは急いで作ったからなのか、わかりにくい部分が多かったように思う。特に後半、物語を急ぐためなのかどうか、非常に急展開でちょっとすっきりしなかった。

判りにくい例でいえば、ラスト近くのソフィーの「私グズだから・・・、ごめんね」の台詞。なんとなくわかるような気もしないでもないが、説明を求められるときちんと説明できない。ハウルとカルシファーの関係、契約、呪いというのも釈然としないし、荒野の魔女がハウルに掛けた呪いも謎。ソフィーが若返ったり年を取ったりする条件もよくわからない。ソフィーがカルシファーに水を掛けたときに消えなかったのは何故か、カルシファーがハウルに心臓を返した後、ハウルには魔力があるのかどうか、そういうところも全部謎。厳しい言い方をすればご都合主義で通している。

唐突さという点では、まずソフィーとハウルの関係。ソフィーがハウルに恋をしてしまうというのはあの劇的な出会いからもわかる。しかしその後、魔物化しはじめているハウルに「あなたのことを愛しているの」と言ってしまうのは、夢の中だからとしてもあまりにも突然だ。さらに終盤のハッピーエンドへの展開。ソフィーがハウルの過去を見たり、カブが王子様だったり。そんな感じで、いろんなことがいきなり過ぎてどうにもすっきりしなかった。

だいたい、サリマンがあのくらいのことで戦争を止めると言うのなら、はなから戦争を止めているべきだったのではないか。そもそもサリマンが、市民を無視し、一般人であるソフィーを巻き添えにしてまでハウルに執着していたのがわからない。魔王になりそうだから、という理屈をつけているが、戦争などしなければハウルが魔王になることもなかったかもしれない。サリマンならそのくらいのことは判っていただろう。またあれだけ執拗にハウルを追っていたサリマンが手のひらを返して「戦争をやめる」と言い出したのも不思議だ。ハウルが心を取り戻したから方針を変えた、というのは、一国の行く末を大きく変える理由としては納得がいかない。あるいは隣国の王子が出てきたからだろうかとも思ったが、戦争している相手国の王子が出てきたといってどうだというのだろうか。ソフィーの真摯さを見て心を打たれた、という風でもなかったし、本当にサリマンの気まぐれにしか見えない。サリマンは思慮深そうに見えて、実際には状況に流されて意見を変えているだけなのではないかとさえ思った。


もうひとつだけ気になった点。それはソフィーの顔。登場時と後半と、ソフィーの顔が全然違う。これは宮崎アニメにしてはめずらしいことだ。登場時、太い眉にきつめの目の、宮崎アニメにしては珍しい顔立ちのソフィーだったが、終盤ではほとんどナウシカのようになってしまっていた。こういう作画のばらつきは珍しい。ちなみに、どうでもいい話だしこんなことを言うと怒られるかもしれないが、序盤のソフィーの顔は私に似ているな、と思ってしまった。


批判しないといいつつ、けっきょく批判になってしまった。作品としては楽しめたが、気になる点が多かったのは否めない。悪いことばかり書いていてもなんなので良い点も。

今回、いくつかの場面で思わず笑ってしまった。いままでの作品にも笑えるところが多かったが、今回はもう少し笑わせるレベルが高かったように思う。ニヤリとしてしまう場面や、ブッと噴出して笑いたくなるような場面が随所にあった。

動く城やハウルの部屋の造形も良かった。見ているだけで楽しい。それを作中で違和感なく表現できるたくみさはさすが。城から見た山の景色や、湖のほとりでのお茶のシーン、花畑など、アニメなのに本当に綺麗だと思える景色も多かった。

今作は魔法がテーマになっているので、不思議場面が多かった。幻想的なもの好きなので、魔法を使う場面や魔法の生き物が出てくるところ、使い魔の動き、戦い、空を歩くシーンなど、見ていてワクワクゾクゾクするシーンてんこ盛り。そういうシーンが見られただけでも大満足だった。

ソフィーというキャラの魅力。特におばあちゃんになってからのソフィーの快活さは見ていて心地よかった。老婆になって「慌てちゃダメ」と言いつつ、慌てているソフィー。城を大掃除しているソフィー。おばあちゃんソフィーと、カブやカルシファーとの会話のやり取りは特に面白かった。若いソフィーはそれはそれで魅力的だが、年老いたソフィーにも大きな魅力があった。時に優しく、ときに厳しく、皆を虜にしていき、どんな相手でもどんどんと味方にしてしまうところは素直に楽しい。千尋にも共通するポジティブな包容力。それはポジティブなナウシカと言えるかもしれない。若いときには臆病で何もできなかったのに、おばあちゃんになった途端に「年寄りのいいところは、少々のことには動じなくなることね」と言い、ハウルも魔女もサリマンも王も、恐れるに足らずといった強さを見せる。そういうところが気持ちいい。


いままでずっと情報をシャットアウトしていたのでわからないのだが、世間の評判はどうなのだろうか。私の中で未消化になっている部分の考察なども探してみたいと思っている。気になる点はあったものの、作品としては充分に良作だったと思う。遅ればせながらも劇場に見に行って良かった。見ていて気持ちよかった。


あ、余談だが、個人的にはキムタクの声はほとんど気にならなかった。というか、スタッフロールを見るまでそのことは忘れていた。逆にソフィーの声が年寄り臭くてちょっと気になった。

もうひとつ余談。相方曰く、ハウルとのキスは老婆の姿のソフィーとして欲しかった、と。確かにその方が劇的だ。で、キスしている最中に若返っていく、と。ソフィーの若返りをもっと出し惜しみして、後半に出していれば、若返りのインパクトがもっと強まったかもしれない。