コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

日本語なるほど塾

NHKの「日本語なるほど塾」が地味に面白い。各界の専門家を呼び、月ごとにテーマを決めて「日本語」について講義のようなことをする番組だ。本当に地味で、ほとんどがスタジオでの1対1の対話。たまにロケや例示、街頭インタビューが入るという程度。しかしそんなシンプルな作りであるにもかかわらず、いままで当たり前だと思っていた日本語の概念や考え方を軽く崩してくれる。

ちなみに先月は敬語についての特集だった。昨今よく敬語や丁寧語がおかしい、と言われるが、そのことなどについて解説していた。私がこの番組を見始めたのが先月の中ごろだったので、後半2回しか見ていないのだが、その中だけでもいくつか興味深い話があった。その紹介と私なりに思ったことをば少々。


「〜させていただく」は変な丁寧語
最近よく耳にする「〜させていただく」という表現。間違いというわけではないが、これは特殊な謙譲表現で、比較的最近になって使われはじめたもののようだ。例えば「する」の謙譲語は本来「いたす」だ。しかし最近では、「〜いたします」の代わりに「〜させていただきます」などと表現することも多い。これは本来の謙譲語ではないが、「相手のおかげでできる」という意味合いを込めて謙譲を表現しているということらしい。普段当たり前のように使ってしまっていたこの語が、本当は少々おかしな語であるということは、指摘されるまで考えもしなかった。

この「〜させていただく」の用法は間違いではないし、意味もニュアンスも通じる。丁寧な言い方としてこの語を使うことは問題ない。しかし一方でどんな動詞でもこれさえ使えば謙譲の意味になってしまうのだ。結果、本来の謙譲語を使う機会が減り、そのうち消えてしまうのではないかという危惧もあるようだ。



「○○君」という呼びかけは、目下や同輩の男子に対する呼びかけとして使われる。しかしこの「君」というのは本来目上の人間に対して使う言葉だったようだ。今でも国会での呼び出しなどでは「君」を使っている。

そもそも「君」には主君や天皇という意味がある。その目上の人に対する呼びかけが、次第に同輩に対して敬意を表するときに使われるようになっていた。そのうち教師などが男子生徒を君付けで呼ぶようになり、それが生徒間に広がって、敬意を含まない普通の呼びかけの表現になっていった、ということだ。

しかし古来そうであったといって、目上の人や上司にいきなり「君」付けて呼びかけたりはしない方がいいと思うが。


他にも私が見ていない第1回、第2回にも面白い話があったようだ。そのあたりは公式ホムペに簡単にまとめてある*1。このまとめをコラムとして読んでいるだけでもけっこう面白い。たとえば、最近よく問題視されている、ファミレスなどで使われている「〜の方」という言い方について書かれている。これは“ぼかし表現・あいまい表現”で、古来、丁寧さを表す用法なのだそうだ。人を呼ぶときでも「その方」などと呼びかけているが、それと同じことである。よく目くじらを立ててファミレス言葉を叩いているのを見かけることがあるが、逆に「〜の方」の方が古来から使われてきた言葉であったというわけだ。どんでん返しのようで、なかなかに面白い。

関連サイト

*1:ちなみに敬語の話についてはここ。http://www.nhk.or.jp/naruhodo/200412/bk200411.html