コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

サイコドクター楷恭介 (3,4)

サイコドクター楷恭介 4 (モーニングKC)

サイコドクター楷恭介 4 (モーニングKC)


先日、「サイコドクター櫂恭介」が、前作と絵柄もあまり変わらず、読みやすくてよかった、などと書いてしまったが、そのことについて少し後悔している。

新版のサイコドクターを描いたオキモトシュウ氏にとって、前作と比べられ、同じものと求められることは、作品を作り出す作家として辛いものであったことは容易に想像できたはずだ。ストーリーは他人が作り、前作と絵柄を統一することを求められ、「自分の作品」を描くことのできないジレンマ。4巻のカバーに書かれていた彼の独白に彼の苦悩が込められているような気がした。能天気に「前と同じでよかった」などと言っていた自分が情けない。

以下、ネタバレ込み。

しかし、まさか4巻で完結するとは思わなかった。新版にしたくらいだから、これからも長く続けていくんだろうな、と漠然と思っていた。それが、4巻を見終わった時点で明らかな最終回ぽい終わり方。これでは、オキモトシュウ氏が前作の「尻拭い」をさせられたということのようで、なんとも後味が悪い。


サイコドクター楷恭介 (3)
ともかく個々の内容について。まず3巻だが、リスカと引きこもりの話。どちらも現代の若者に多く現れている現象だ。両者とも「現実との乖離」のような状態で、特に後者は社会問題にも発展してきている。この巻は珍しく、犯罪的なことがほとんどなし。リスカ娘の父親による誘拐監禁はあったが、それも治療の一環だし、いままでの話のような「犯人」はいない。これは珍しい傾向だと思う。

しかし櫂先生、またまたやりすぎ。踏み切りの中に飛び込んだり、親父に誘拐させたり、挙句の果てには親父に腹を刺させて実際に怪我までさせている。こんなことしてて逮捕されないのだろうか。少なくとも医師免許は剥奪されそう。実際にこんなことする医者がいたら、診てもらいたくないなぁ。

2件とも、作者(原作者?)なりの「救い」を提示して話を締めくくっている。しかし前者に関しては「家族関係がうまくいっていないリスカ」、後者に関しては「エリートではない引きこもり」をまるで置き去りにしている。ケースバイケースはわかるが、両者ともある意味すごく恵まれた環境で、その環境のおかげで救われているという感がぬぐえない。ま、恵まれた環境を治療に使う、というのは当然といえば当然のことだろうけど。


4巻。妊婦殺人事件と、ストレイキャットの事件。前者は、この漫画のパターンが読めてきてたので、親友の方が犯人だろうな、というのはすぐに想像がついた。もうひとつ、後者はずっと気になっていた義妹がらみの事件。最初から妹を怪しいように描いていたので、これが犯人ではないんだろうな、とは思っていた。

ストレイキャットに対してはいくつか不満が残る。ルカの内面がほとんど描かれていなかったのに加え、櫂や義父の苦悩もやや弱い。だいたい、捜査に協力すると言っておいて犯人が身内だったら何も言わないって、そりゃあんたあんまりだ。それとさ、最後で犯人が記者を殺してしまうんだけど、それって櫂たちのせいもあるんじゃないの? ほとんど取りざたされてないけど、アメリカ刑事が銃で犯人を殺すなみに重大なことだと思うのだが、まったくおざなりにされてしまった。


苦言ばかり呈したが、面白くなかったわけではない。ただ気になる点が多かったというだけだ。

櫂先生にはもう少し活躍してほしかったが、作者も疲れているようだし、このくらいで終わっておく方がよかったのかもしれない。ただ、まーったく報われる気配もないあずさがちょっと哀れ。