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多重人格探偵サイコ (10)

多重人格探偵サイコ (10) (角川コミックス・エース)

多重人格探偵サイコ (10) (角川コミックス・エース)


やっと出た。とうとう出た。ずっと出るのを待っていた。田島昭宇大塚英志の黄金コンビの怪作。サイコの最新刊が出た。

いやはや思っていたとおりの展開あり、意外な展開ありであいかわらずのジェットコースター状態。今回もまた主要キャラが淘汰され、新キャラ(?)が登場。いままで極悪の張本人だった西園弖虎が味方のようになり、頼もしく見えてしまうのが嬉しくもあり、殺人来なのに頼りに感じてしまうのが悲しくもあり。でもなにかどこか危うい存在の弖虎。「雨宮」と統合できないということだけではなく、飽くまでも器でしかない自分の立場を知っているような絶望感と諦観が漂っている。

以下ネタバレあり。


9巻が、西園弖虎が鬼干潟に反旗を翻し、国会になぐりこんでルーシー現象を起こしたところで終わり、その先どうなるのかものすごく気になっていた。実際には国会への殴りこみさえも鬼干潟にうまく利用されたに過ぎなかったというオチ。弖虎でさえも鬼干潟の手のひらの上で踊っているようでどうにも気分が収まらない。けっきょくガクソもルーシー現象も、すべて鬼干潟の支配力強化のための礎に過ぎなかったということだろうか。

しかしたぶんこれでは終わらない。もっと深い闇が、その先に潜んでいそうな予感。全一の介在、そして覚醒した伊園若女*1の存在がそれを示唆している。

今回一番の衝撃は、鬼頭の死とその素性、だろう。反ガクソ、反鬼干潟の中で一番頼りになりそうな人物だっただけに、その死は痛い。そして鬼干潟の「スペア」であったという事実。ふたりとも名前に鬼がついてるなぁ、なんて漠然と思っていたが、まさかスペアだったとは。こういう設定、大塚英志はいつ頃から考えていたのだろうか。一説には、「多重人格探偵サイコ」はキャラクターありきで、キャラクターの設定や性格を先に作り、それを動くがままに動かして物語を作っていると聞いた。もしそうなら、鬼頭と鬼干潟の関係も後付けのものなのだろうか。それともそういう「伏線」はキャラ作成のときに折込済みだったのだろうか。

確かに主要キャラ死にまくり、主人公が交代してヘタレ笹山になってしまうなど、勢いでやってるだろ、と言いたくなるような部分はある。しかし10巻までを通して、全体的に筋が通り、設定にも統制がとれている。とても「成り行き」で出来た話のようには思えない。成り行きにしてもそうでないにしても、この話の練りこみ方は凄い。

メジャー系のグロ漫画の筆頭と言えるくらいグロい漫画ではあるが、それはともかく、ストーリー展開や謎、微妙にSFちっくなところが絶妙な漫画だと思う。大塚英志の他の漫画ではそれほどハマるものには当たったことはないが、サイコだけは別格。恐らく田島昭宇の絵の影響も強いだろう。一枚一枚がイラストのような洗練されたデザイン。ビアズリーのような繊細な線と、奇妙な造形。現代のデカダンスと言っても過言ではないかもしれない。

しかし、この漫画のグロさにも慣れ、暴力表現に麻痺してしまっている自分が少し怖い。千鶴子の手足切断をはじめて見たときはものすごい衝撃だったが、いまはその回想を見てもそれほどの衝撃を受けない。田島昭宇の絵がデザイン的で無機質に見えるから、というのもあるだろうが、やはり慣れが強いだろう。少なくとも子には見せられない漫画だ。

ともかく続きが気になる。でも次が出るのはまた1年後かなぁ。

関連サイト

*1:「わかな」、と読むらしいが、どうしても「わかめ」に見えてしまう。