コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

フェミニストな教授

オスカー・ワイルドで思い出した、フェミニストな教授の話。フェミニストといっても、「女性にやたらに優しい紳士」のことではない。参議院議員の田嶋陽子のような、フェミニズム、いわゆる「女性解放論」の方。

私は英語の授業でこの教授に当たってしまった。この教授、田嶋某など足元に及ばぬほど強烈な先生だった。言うことが怖い、単位にも厳しい、授業内容もきつい、ってなわけで、いち早く危険情報を入手していた連中は、さっさとLLやら外人教師の授業へと逃げていってしまった。逃げ遅れた、あるいはやばいということさえ知らなかった数名が、この先生の授業を受けることになった。本来なら50人以上が受ける授業だったが、実際には20人余しか受講生がいなかった。

私も他の授業に逃げようとはしたのだが、やばいという話を聞いたのがかなり後だったので、もう手遅れだった。というわけで、観念してその先生の授業を受けることにした。

前期は、オスカー・ワイルドの名言集のようなテキストを使っての授業だった。「英語を読めるのは当たり前、その先のワイルドの考えや言っていることを解釈し、発表しなさい」という感じの授業だった。順番に訳をしていくわけだが、それを忘れた者はもう単位がない、というような厳しさ。授業中にテキストから外れてフェミニズム論に突っ走ることもしばしばあったが、それでもまあ前期は大人しいものだった。

そして後期。前期で懲りたのか、授業を受ける者は5人にまで減った。前期は教室で授業をしていたのだが、これだけ少人数なら教室を使うこともないでしょう、ということで、後期は資料室でゼミのような授業をすることになった。

後期のテキストとして渡されたのは、どこの誰ともわからない女性が書いた変なSF小説のコピー。ワイルドの本はちゃんとテキストの体裁を取っており、難しい語や特殊な語には日本語の注釈なんかがついていたのだが、今回は完全に英語の小説。日本語なんて微塵もない。

しかも、その内容はこんな感じ。

遥か未来。男性も女性も、科学技術によって繁殖するようになり、お互いを必要としなくなっていた。結果、男性と女性はそれぞれに別れて暮らすようになった。女性はその本来の優しさでもって平和なコミュニティを築いていた。対して男性は、意図的に「女のような男」を作り出し、それを奴隷として暴力的に扱ってストレスを発散していた。そして男性と女性は戦争をはじめ、女性を捕虜とした男性は・・・・・・

今だったら即、「おいおいおいおい!」と突っ込みを入れたくなるような内容だが、当時まだ初心だった私は、そんなこと考える余裕もなく、ただただ英訳に追われていた。しかしある日、「なんかおかしーぞ」ってことに気付いた。

その教授が言うには、男女には体の作り以外に本来差はない。女性に母性本能があるというのでさえ、社会的教育によって植え付けられた欺瞞だ。男が子を育てることだってできるし、女が子を育てるのに適しているというのは、男が自分たちに都合のいい社会を作り出すために編み出した偏見だ、ということだった。

男が青で、女が赤、とか、女はスカートで男はズボン、とか、男が勇者ごっこで女の子がおままごと、などというのは、男性上位社会を子供に刷り込むために作り出された社会的システムであり、そもそもの男女にそういう差異はないはずだ、と。わからないでもない。別に女が青を、男が赤を選んでもいいと思う。男のスカートはさすがに見慣れないのでちょっと変だが、スカートを嫌いな女がいても何の不思議もない。ままごとの好きな男だって当然いる。

しかし、だ。教授が授業に持ち出したそのテキストはどうだ。「女性は優しい、男性は乱暴」これって教授が嫌っている「男女の差異」のステロタイプそのものじゃないか。女性にだって残酷、残虐な面はある。女性ばかりが集まるコミュニティでも酷いイジメなんかはしっかりとある。逆に男だからといって必ず弱いものを虐げるとも言えない。

そんな疑問がたまっていって、ある日それが噴出してしまった。教授に対して「それはおかしい」というようなことを切り出してしまったのだ。その後は教授と1対1の議論。授業が終わってもずっと議論を続けていた。他の受講生は、授業が終わると呆れ顔で出ていった。確かにみんなに恐れられている教授に対してそういう風に食ってかかるってのは正気の沙汰ではなかったのかもしれない。でも、やっぱり黙ってられなかったのだ。

結果としては、そんなぺーぺーの私が、何年もフェミニストとしてバリバリやってきた教授を打ち負かすことなど当然出来ず、時間切れで終わってしまった。しかし最後に一言、「あなたの考え方が正しいとは言えませんが、ちゃんと考えているということはわかりました」みたいなことを言われた。怖い先生だったし、いまでもあの先生の考え方が全て正しいとはどうしても思えない。が、自分に対立した考えを持っていたとしても、考えている人間をちゃんと認められるという態度は立派だと思った。

まあそんなわけで、わずかながらにも真性のフェミニズムに触れられたというのは良い経験になったと思う。ただ、田嶋某もそうだが、フェミニストってどうして女性の権利以外の権利をないがしろにするんだろうな。男は屑、男はダメ、男は暴力バカみたいなことをよく言ってるような気がする。権利を主張し、平等を唱える者が、そうやって他の集団をバカにしていては何の説得力もないと思うのだが。

フェミニズムそのものに関して書くと長くなるのでまたいずれ。