コトバノウタカタ

よしなしごとをつらつらとつづるばしょ。

彼は誰(かはたれ)*

彼は誰時、などといい、朝方の薄暗い頃を表す。夜闇から朝間への瞬間、世界が最も茫とする刻。「彼は誰?」と尋ねなければならないような時、という意味らしい。時を表す言葉に誰何を持ってくるとはなんとも小粋だ。

一方夕刻は「黄昏(たそがれ)*」と言うが、これも実は「誰そ彼」という誰何から来ている。朝も夜も問いかけの言葉が時を表す言葉に転じているというのが面白い。

他にもこの時刻は「逢魔ヶ刻(おうまがとき)」「大禍時(おおまがとき)*」など、一風変わった呼び名が与えられてる。実際に世界がおぼろげで何もかもが判然とはせず、昼とも夜ともつかず、空が赤やら紫やら紺やら、常ならぬ色に染まっているし、魔が出たりしてもおかしくない時刻だったのだろう。

私個人としても、日が沈みきった後、または登りきらぬ前のこの時間の空が一番美しく、蟲惑的だと思う。一日の中で一番のお気に入りの刻だ。